論文紹介


 久間章生氏の講演と少子化問題 

笠松 正憲


愛知政治大学院 個人論文個人(2006.4作成)

コメント: 愛知政治大学院で 久間章生自民党総務会長(当時)の講演後に書いた論文です。


 自民党総務会長という要職にある氏の生の声を聞く機会であった。話題は多岐に及んだが、氏と院生の質疑応答で興味を引く話があった。「出生率に対する政策」である。

 日本の合計特殊出生率(TFR)は1989年に戦後最低の1.57を記録し、丙午(ひのえうま)の1966年を下回り「1.57ショック」と呼ばれた。これをきっかけに「少子化」が社会問題として認識された。現人口を維持するのに必要といわれるTFR2.08に対し、2004年は1.29であり大きく足りない。TFRは低下しているが、婚姻者間の子供の生み方は安定して推移していた。すなわち、TFR低下は未婚者の増加(未婚化)の影響が大きいという問題点も併せ持つのである。現在の少子化政策は、2004年の「子ども子育て応援プラン」として男女共同参画的な方策が採られている。「男女がともに仕事と生活を大事にできるような生き方」を目指しているのである。

 しかしながら「政策で出生率を上昇させることは難しい」という現実がある。なぜなら「子どもを産むかどうか、いつ産むか、何人産むか」はあくまで個人的な問題。産む条件が整備されたからと言って、個人の人生設計が大きく変わることはあまりないのではないか。未婚者増加も同様で、若年層の将来見通しの悪化(経済停滞、雇用環境悪化など)が主因と類推されるが、個人の結婚価値観にまで政策は踏み込めないのである。

 「政策」が「成果」を出すには、氏の述べた『子供一人に対し100万円拠出しよう。』くらいのビッグサプライズが必要であろう。また、将来への投資比重が高い現在の政策(例えば保育園の充実)を改良する必要があると考える。私は、即効性があり効果が確実な政策の拡大を提言したい。出生に対する医療技術の採用、すなわち『不妊治療助成の拡大』である。既婚者10組に1組が不妊問題を抱えているとのデータもある。子供がほしいのに作れない既婚者の問題対策(不妊、不育問題)は財政さえ許せば、即、次年度の出生者増につながるのである。厚生労働省は2004年度予算案に「特定不妊治療助成事業」として25億円を盛り込んだ。名古屋市の例では年度あたり上限額10万円(1夫婦への助成は2ヵ年度が限度)(注:今年度からは5年に延長予定)である。厚生労働省は25000組分の予算を計上したに過ぎない。1回の体外受精に30〜50万円、成功率が必ずしも高くなく複数回の治療を要す現実を考えると金額、件数ともにあまりに規模が小さい。これでは、効果は疑問である。日本の将来像を念頭に置いた思い切った財政出動が国策として必要ではないか。『医療費100万円を拠出し、将来の労働者を一人作ろう。』悪い考えではないと私は考えるが。       


    引用

「平成16年人口動態統計月報年計(概数)の概況」(厚生労働省)
「第12回出生動向基本調査(夫婦調査)」初婚どうしの夫婦について(国立社会保障・人口問題研究所)
「国勢調査」総務省統計局
「子ども・子育て応援プラン」(2004/12/24公表、厚生労働省) 
平成16年版 少子化社会白書(全体版)  少子化社会対策関係予算の一覧
  http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2004/html-h/html/g3120000.html
名古屋市特定不妊治療助成事業のご案内
  http://www.city.nagoya.jp/kurashi/kenko/kosodate/service/kakushujyosei/funin/nagoya00006093.html
足立病院−不妊治療センターホームページ
  http://www.adachi-hospital.com/funin-center/fee.html


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