論文紹介


 死刑制度を廃止すべきである

笠松 正憲


愛知政治大学院 個人論文個人(2006.6作成)

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 1989年国連総会で死刑廃止条約(正式名称「死刑廃止に向けての市民的および政治的権利に関する国際規約の第二選択議定書」)が採択された。締結国は死刑廃止のためにありとあらゆる措置を講じ、又、その国民は処刑されることはないというものである。反対国は死刑存置国が多く、イスラム国、発展途上国などで、先進国は日本とアメリカだけである。1993年3月以後の日本の継続的な死刑執行は、国連及び国際社会の潮流に真っ向から背を向ける対応である。

 日本の世論調査では、死刑存置派が圧倒的に多い。『死刑は廃止すべきである 8.8%』に対し『死刑もやむを得ない79.3% 』なのである。国は、この世論調査を死刑存置の大きな根拠としている。現状、密行主義の中で死刑の実態は明かされず、犯罪の残酷さは日々のマスコミ報道でセンセーショナルに報じられている。どちらが国民に熱烈に印象付けられているかは言うまでもない。世論調査は、情報を広く公開した上で客観的な調査を行うべきであり、死刑制度存置論の根拠とするには信憑性を欠いていると私は考える。

 死刑制度を廃止すると『被害者の感情が満たされない』という考えもあろう。しかし、哀しみや苦痛は、加害者が苦しんだり殺されたりすることで癒されるのだろうか。自分がしたことを悔い改め、被害者や被害者遺族に一生を捧げ、彼らのために祈ることこそが罪の償いになるのではないか。事実、被害者遺族の中にも死刑反対論者はいるのである。被害者遺族心情を考えての死刑制度存置論も的を得ているとは言い難いのである。

 死刑は挽回不可能な極刑である。死刑は合法的に国が行う殺人である。殺人を罪としながら、殺人(死刑)で報いること自体が論理の矛盾ではないか。

 そもそも、刑罰の本質はあくまでも本人に反省させ、もう一度やり直すチャンスを与えるということである。ところが、死刑はもはや改善不可能とみなしたとりかえしのきかない刑罰だ。これでは刑罰の本質からはずれてしまっている。この問題については、世界中の死刑に関する百年来の論争の中でほとんど触れられていない。ゆえに、この未解決の論点の上に死刑制度が存在することはそれ自体が問題である。死刑は生命刑である。自由刑や財産刑といった刑の軽重が可能な刑ではない。だからこそ慎重に、少しの矛盾もあってはならないはずである。しかし現実にわが国では死刑制度が数々の問題点の上に成立している。そこには一人や二人処刑されることがあってもそれをやむを得ないとする、人権意識の低い日本ならではの国家権力の横暴が根底に見え隠れしているのである。私は、死刑制度を廃止すべきであると考える。


    参考文献

 アムネスティインターナショナル日本支部編『アムネスティ人権報告8 死刑廃止』
 『総理府広報室 基本的法制度に関する世論調査(平成11年9月)』
 団藤重光他『死刑廃止を求める』
 団藤重光 『死刑廃止論[改訂版]』


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