論文紹介


安倍新総理の課題 『医師問題』 

笠松 正憲


愛知政治大学院 個人論文個人(2006.9作成)

コメント: 


 医師の特定地域への偏在や、産科・小児科の医師不足は深刻な社会問題である。安倍新総理の課題としてこの点を指摘したい。

 最近、産婦人科・小児科だけではなく一般的な医師不足という問題がマスメディアを賑わしている。日本で、医師が不足していることが問題となったのは、これがはじめてではない。1961年の国民皆保険の実施に伴って医療需要が拡大し、医師不足が政治問題化した。そこで、1974年に一県一医大(無医大県解消)構想がスタートして医学部入学定員の増加が政策的に計画され、1979年沖縄県琉球大学の医学部開設をもって全都道府県での医師養成が可能となった。医師増加政策の始まりである。ところが、その琉球大学医学部の第一期入学生がまた在学中の1980年代初めに、既に行政改革と医療費適正化の対策の一つ(臨時行政調査会第三次答申)として医師数の削減を始めた。当時話題になったのは、逆に医師過剰問題だった。医師過剰キャンペーンには、医療の供給側を絞ることによって医療費増大に歯止めをかける狙いがあった。10年にも満たない期間で医師削減政策へと逆の舵を切ったのである。その意味では、現在の医師不足はこの20年間にわたり新卒医師を減らし続けた政策的結果であって、当然の結末である。また、医師数削減の答申に利用された推計は実に粗いものだった。高齢化社会到来を考慮していなかったばかりか、勤務が過酷な診療科を若手医師が避けたり、結婚や育児との両立に悩む女性医師の存在も想定していなかった。日本の医療政策が場当たり的で一貫性がなかったことの責任とも言えよう。そしてここ数ヶ月の政策議論は、医師不足を理由とした地方大学の時限的な医学部定員増である。『経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006』に示されているとおり、現政府は医療費削減を目指しているのである。医師数を増加させる政策は一貫性を欠く。

 インターネットの発達などにより、近年は地方に住むことの困難が軽減されている。また、人口の都市集中も以前ほど議論されなくなっている。しかし、医師の偏在は人口の都市集中を再加速させる因子となりはしないか?『新たな少子化対策の推進』で医療システムの充実が項目として挙げられているが、産科・小児科の医師不足はその弊害となりはしないか?
 休職女医の有効活用を目的とした「女性医師バンク」の活用など、医師数を増やすことなく実働医師を増やす策は多くある。医師問題は生活に密着した国民の関心が高い項目である。目先にとらわれない安定したシステム作りを望む。


    (参考) 

「厚生労働省における政策評価に関する基本計画」女性医師バンク(仮称)
  http://www.mhlw.go.jp/wp/seisaku/jigyou/05jigyou/05.html


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