論文紹介


林清比古氏の講演と「産業廃棄物越境問題」

笠松 正憲


愛知政治大学院 個人論文個人(2006.11作成)

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 諸問題を抱える環境領域で、私は「産業廃棄物の越境問題」に関心がある。最近しばしば県外産業廃棄物の搬入規制が話題となる。家庭ごみを中心とした一般廃棄物には「自区内処理の原則」という考え方がある。発生させたごみは、他地域に迷惑をかけないよう自分達の所で処理するという考え方である。一方産業廃棄物は、法律が広域処理の考え方で組み立てられている。産業廃棄物は地域的に偏って発生する。平成12年度の首都圏都県における県外搬出産業廃棄物量は合計1078万トンであった。このうち、首都圏から他の圏域へ流出している量は142万トンである。この産業廃棄物の偏在は住民の意志とは無関係で、過去の産業政策の結果であり、例えば漁業水産加工に適したなどの地理的条件のためである。ゆえに、広域処理の考え方をするのが妥当であると考えられてきた。近年、住民運動はこの産業廃棄物の広域処理に焦点を当てている。「私達の県は都市のごみ捨て場ではない」として越境規制を打ち出したのだ。

 問題の根底にはまず、都市の膨大な量の廃棄物発生に対して処理場が絶対的に足りないという現実がある。最近は住民の反対や汚染の発生が少ない高度処理への要請の高まりもあり、処理場建設はさらに困難になっている。ゆえに処理場は、住民問題の比較的少ない地方に偏在するという発生場所と裏返しの位置関係にある。また、これまでの廃棄物対策が狭い意味での公害防止を軸にして進んできており、現代の環境問題や都市問題に対応できていない。再資源化、焼却処理という廃棄物処理の必要性は合意されながら、政策実行にあたって住民を納得させるだけの説得力のある答えが見いだせないのが現状である。

 今の社会は分業が進んでいて、都会に住む人も新鮮な野菜を食べることができる。その時、地方の農家が丹精込めて作った野菜を自分達は手を汚さずに金だけ払って食べるのは申し訳ない、とは考えない。都会の人が食べる野菜は都会で栽培するべきだとも言わない。私達は非常に巨大な消費経済社会の中にいる。結果として大量の廃棄物が発生する。その処理場を迷惑施設と決めつけ、自区内で個々に対応しようというのは前向きな論理ではない。

 行政が産業立地政策や都市計画の立案の中で(空港や原子力発電所の建設がそうであるように)廃棄物処理場建設に積極的に関与するべきと考える。民間任せの時代ではない。都市規模に対し、そこで発生する廃棄物量は計算可能である。都市計画の中で商業地域、準工業地域、住居専用地域など用途地域の線引きをする時に、どうして廃棄物処理場地域が確保されないのか。行政が積極的に関与した緑地帯で包まれた廃棄物処理場や下水処理場、世界に誇れるような廃棄物処理センターを作るというのは決して夢物語ではないと私は考える。


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