論文紹介


ジョセフ・R・ドノバン氏の講演と「中国の戸籍制度」

笠松 正憲


愛知政治大学院 個人論文個人(2006.12作成)

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 諸問題を抱える中国問題で私は「中国の戸籍制度」に関心がある。中国の人口は13億人と発表されるのだが、常に”約”という概算値である。政府が推しすすめる『一人っ子政策』に反する形で生まれた第二子以降の子供は戸籍に入れられない(いわゆる「闇っ子」<「黒孩子(ヘイハイズ)」と呼ばれる>)こともあり、実際の人口は既に14億人以上という推定もある。

 人権上問題と考えるのが「農村戸籍(農業人口)」の存在である。中国では戸籍を「農村戸籍」と「都市戸籍(非農業人口)」に分ける。「農村戸籍」は全人口の約75%を占め、差別的に扱われてきた。農村住民には農業特産税が課され、就学就業面では都市へ移動できない。都市住民は医療、失業保険、年金等の社会保障を受けられるが、農村住民にはその保障はない。多くの発展途上国がそうであったように、農村から搾取することで都市の発展が実現されてきた。

 この差別的な戸籍制度こそが現在の中国の問題(A)都市での労働人口不足(B)規模の小さい農業の近代化遅延 の根源であると私は考えている。中国に進出した外国企業は農村戸籍者に移動の自由がないため、安い労働力を得る事ができない。また、農村では労働力が余剰し、農民一人あたりの耕地面積は0.24ヘクタールで日本よりさらに規模が小さいという問題がある。政府は農業問題について特に力を入れているものの、WTO加盟時の公約であった2010年までの農産品の関税引き下げを、2004年に既に前倒し実施し、中国農業はさらに厳しい競争にさらされている。農業近代化を早急に必要としているのである。さらには、農民と都市住民の1人当たりの所得格差が近年3倍以上に拡大しているとの報告もある。この格差の放置は、社会的不安定要因となるだけではなく、経済成長の障壁になりかない。例えば、現在の中国の1人当りのGDPは700ドルでしかないにもかかわらず、既に生産過剰の買い手市場に直面している。その原因の一つは、富が都市部に集中し、都市人口の消費が飽和に達しているが、農村人口はまだ貧しい状態に置かれたままだということにある。GDP伸び率が4年連続2ケタという驚異的な経済発展の中にある今だからこそ、労働力の円滑な移動を妨げているこの戸籍制度廃止の好機である。また、それで人口移動が進めば、過去の日本の例のように農村都市格差は是正されていく。

 「農村戸籍」という生まれながらの身分制度は、人権意識の低い中国の国家権力の横暴が見え隠れしている。中国の内政問題ではあるが、国際社会が人権問題として取り上げるべきことであると私は考える。


   <参考文献>

中華人民共和国駐日本国大使館 http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/


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