名古屋市民病院と公立病院改革プランの行方

    笠松正憲 (名古屋市医師会調査室、医療法人かさまつ皮膚科理事長)


掲載雑誌:  名古屋医報,第1327号、p 8〜14、2008.12.


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はじめに

 4月から調査室の委員に加わりました港区医師会所属の笠松です。
 国は「骨太の方針2006」において、2011年度における国。地方のプライマリーバランスの黒字化を目標に掲げているため、地方公共団体の赤字を放置できない状況にある。それゆえ、地方公共団体の財政運営への監視は年々厳しくなっている。地方公共団体はいま、国から『財政健全化法』及び『公立病院改革ガイドライン』をつきつけられ、今年度中の『公立病院改革プラン』作成を迫られている。そこで今回、『名古屋市民病院と公立病院改革プラン』をまとめることにする。

自治体病院とその現状

1.自治体病院の歴史

 自治体病院とは地方自治体が設立した病院のことである。別名で公立病院とも呼ばれ、全国に973病院ある。戦前はもちろんのこと1960年ごろまでは、日本の病院医療の根幹は自治体病院が担ってきた。いま存在する自治体病院の過半数は1949年から58年の10年間に設立されたが、このころの民間病院は数や質の上で力が弱く、住民に良質な医療を提供するためには、各地方自治体がそれぞれに病院を持たねばならなかった。しかし、とりまく環境は、大きく変化した。道路整備やマイカーの普及で患者の通院エリアが拡大し、居住する自治体以外の病院でも安易に受診できるようになった。また、民間病院の数・規模も大きくなり、医療の質の上でも自治体病院に比べ遜色ないものになった。このような歴史的な変化も、あらためて自治体病院の存在意義、あり方を問う基礎となっている。

2.自治体病院と経営状態

 自治体病院は地方公営企業の一つである。地方公営企業とは、その住民が生活に必要としている公共サービスを提供する企業であり、病院事業の他に上下水道、交通事業などがある。地方公営企業は、地方公営企業法に基づいて運営され、料金収入により原則として独立採算で運営される。近年、この自治体病院のあり方が社会問題化している。それは赤字額が毎年増大し続けているからである。実際に経営破綻する自治体病院がある。北海道の夕張市立総合病院(171床)が、夕張市の財政破綻とともに39億円に上る一時借入金を抱え破綻したのは記憶に新しい。また、最近では千葉県で銚子市立総合病院(393床)が、採算悪化により今年9月末に診療を全面休止した。総務省『平成18年度地方公営企業決算の概況』によれば、2006年度決算で5,254億円の繰入金を自治体から補助されたにもかかわらず、1,985億円という過去最悪の赤字を出した。また、その累積欠損金は1兆8,736億円に達す。赤字額は、毎年増加傾向にあり地方自治体本体の財政を大きく圧迫している。
 自治体病院の経営をみる場合に注意したいのが、自治体病院での赤字、黒字というのは、経常収支で発表されることである。都道府県、市町村など経営主体から繰入金(補助金)を入れ、その上でなお赤字の場合が赤字と発表されることである。例えば、自治体病院の赤字率77%と表現されることがあるが、民間病院の赤字とは意味が異なる。本来の民間病院でいう赤字率でいえば、90パーセント以上の自治体病院が赤字と推定されている。

3.名古屋市民病院と経営状態

 名古屋市立病院は、誰でも安心して受診できる医療機関として地域で重要な役割を担っている。名古屋市は、西部医療センター城北病院、西部医療センター城西病院、東部医療センター東市民病院、東部医療センター守山市民病院、緑市民病院の5病院を運営している。地域住民の要請に基づき、医学進歩に対応した適正な一般的医療を供給するほか、他の医療機関で対応することが困難な救急、周産期、未熟児、リハビリ、癌、難病等の高度・特殊先駆的医療・感染症等の医療を推進している。また、名古屋市立大学医学部等の関連教育病院として医学部学生の教育を、また、研修指定病院として卒後医師の教育を、看護師をはじめとしたパラメディカルスタッフの養成、実地研修等の教育機能を持つ。更に災害拠点病院として災害時に必要な人材、資材を確保する等幅広い役割がある。
 市立病院の財政は、2002年度以降赤字である。『名古屋市病院事業会計平成18年度(2006年度)決算の概要』によると、2006年度決算で約12億円の赤字(赤字の累積額は約80億円)が生じている(一般会計補助金28億円)。また、新聞で伝えられた速報値(中日新聞 2008年10月4日地方版)によれば、2007年度も約39億円の赤字(赤字の累積額は約120億円)と見込まれている<収入金額は前年比96%減の208億円>。これは、診療報酬|のマイナス改定、医師。看護EIJ不足の影響が少なからずあったと考えられる。現に昨年度、東部医療センター東市民病院と緑市民病院では、一時期、看護師不足により病棟が閉鎖される事態となった。

4.自治体病院の経営悪化の原因

 自治体病院の経営悪化の主な原因として以下の点が指摘されている。
 @へき地医療・救急医療をはじめとする不採算部門を担わねばならないこと、
 A経営意識の欠如、
 B高建設コストに伴う減価償却費、
 C病院の整理・統廃合の遅れ、
 D民間と比して著しく高い事務職員、看護師等の人件費、
などである。さらに近年では、診療報酬のマイナス改定、2004年度からの「新医師臨床研修制度」の影響による医師不足が経営悪化に拍車をかけている。

自治体病院への国の対応について

1.「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(財政健全化法)

 夕張市では病院事業会計などを使って夕張市本体の巨額の赤字を隠していた。2006年6月に夕張市が財政破綻。旧夕張市立総合病院も同時に立ちゆかなくなった。これを契機に、国は再発防止のための新しい破綻基準を作った。財政健全化法である(2007年6月公布)。従来の法律「地方財政再建促進特別措置法Jでは、普通会計において赤字額が標準財政規模の20%を超えるといきなリレッドカードが出て財政再建団体となり、イエローカードともいえる注意喚起の段階がなかった。また、特別会計や企業会計にいくら累積赤字があっても財政再建団体とならず、地方公共団体全体の姿を反映したものではなかった。新法では「隠れ借金Jといわれた病院・水道などの特別会計や第ニセクターも含めた財政の健全性を示す指標を新たに設けたのが特徴である図表1。今回の新法は、「早期健全化Jと「財政再生」の2段階で財政悪化をチェックするとともに、特別会計や企業会計も併せた連結決算により、地方公共団体全体の財政状況をより明らかにしようとするものである。病院事業をはじめとする公営企業は、単体の事業としても、地方公共団体の財政運営全体の観点からも、一層の経営の健全化が求められる(財政健全化法適用は2008年度決算から)。 


 

2.公立病院改革ガイドラインと公立病院改革プラン

 総務省は2007年12月に公立病院改革ガイドラインを公表した。このガイドライン自体に法的拘束力はない。しかし、2007年6月閣議決定した「経済財政改革の基本方針2007について」に、「総務省は、平成19年(2007年)内に各自治体に対しガイドラインを示し、経営指標に関する数値目標を設定した改革プランを策定するよう促す」との一文があり、社会保障改革の一環として公立病院改革に取り組むことを明記している。実質、病院をもつ地方公共団体に対し、これに沿った対応を求めているのである。
 「公立病院改革ガイドライン」における公立病院改革の視点は、以下の3つである。
(1)経営の効率化について
・一般会計等が費用負担する範囲、算定基準については、「最大限効率的な運営を行ってもなお不足する、真にやむを得ない部分」のみが一般会計等の費用負担の対象である(現実の公立病院経営の結果発生した赤字をそのまま追認し、補てんする性格のものではない)
・同一地域に民間病院が存在する場合は、民間病院なみの効率性の達成を目標数値とする
・病院の立地条件、医療機能等には配慮する(離島、へき地に立地する病院や、小児科、産科、周産期、精神医療等に特化した専門病院は、一般会計からの繰出基準の設定や経営指標の評価において一般的な公立病院とは異なる取り扱いが必要)
・病床利用率がおおむね過去3年間連続して70%未満の病院は病床数の削減、診療所化など、抜本的な見直しをする。その際、病床数が過剰な二次医療圏内に複数の公立病院が存在する場合は、再編。ネットワーク化により過剰病床の解消をする
(2)再編・ネットワーク化について
・2013年度までに実現を目指す
・二次医療圏単位での経営主体の統合の推進、医師派遣に係る拠点病院の整備または連携、病院機能の再編及び病院・診療所間の連携体制に留意する
・再編・ネットワーク化の検討に当たってモデルとなるパターンは図表2のとおりである



パターンI
二次医療圏内のA市立病院(250床)、B市立病院(200床)、C町立病院(50床)及びD町立診療所(0床)を4市町が設立した新たな地方独立行政法人に経営統合し、新設の公立S病院(400床)及びA・B・C・Dの4地区診療所(いずれも0床)に再編・ネットワーク化
パターンU
二次医療圏内のA市立病院(250床)、B市立病院(200床)、C町立病院(50床)及びD町立診療所(0床)を4市町が設立した新たな地方独立行政法人に経営統合し、B地区病院を増築して400床の基幹病院とするほか、A・Dの2地区は無床の診療所とし、C地区は救急機能を存置しつつ19床の診療所化
パターンV
A町立病院(50床)及びB町立病院(50床)は、ともに無床の診療所化し、共同して二次医療圏内の拠点病院である日本赤十字社S病院を指定管理者に指定。同病院から安定的に医師の派遣を受ける体制を構築
パターンW
二次医療圏内のA県立病院(200床)、A市立病院(200床)及びB町立病院(50床)のうち、建物が老朽化したA県立病院及びA市立病院は新築した公立A医療センター(350床)に機能を統合、継承し、S医療法人(S総合病院を経営)を指定管理者に指定。B町立病院は救急機能を存置しつつ19床の診療所化、同様にS医療法人を指定管理者に指定することにより公立A医療センターと一体的経営
(3) 経営形態の見直しについて
経営形態の見直しを行うLで最も重要な点は、経営権限と経営責任を一体化した運用体制が確保できることである。経営形態の選択肢として 地方公営企業法全部適用、地方独立行政法人化(非公務員型)、指定管理者制度の導入、民間委譲の4つを推奨している。

3.各種経営形態について

先に述べたように、公立病院改革ガイドラインでは経営形態の見直しとして4つの選択肢をあげている。以下にその4選択肢をはじめとする代表的な各種経営形態の特徴を簡単に述べる。

(1)地方公営企業法一部適用

・自治体病院の大部分の経営形態である
・公営企業法の一部適用(財務規定のみ)である
・地方公共団体の長が管理者であり、経営意識は低い
・給与体系は一般の公務員と同じ
(2)地方公営企業法全部適用 <公立病院改革ガイドライン選択肢>
・公営企業法の全部適用(財務規定のみならず、人事、組織、予算等の全部)
・病院事業管理者は地方公共団体の長が任命。病院事業管理者は業務執行権と代表権を有する
・地方公営企業独自の給与表を作成可(人事委員会勧告の対象外)
・事業管理者に対し、人事。予算等に係る権限が付与されより自律的な経営が可能である
・経営の自由度拡大の範囲は地方独立行政法人化に比べ限定的
・民間的経営手法の導入という所期の目的が達せられるためには、制度運用上、事業管理者の実質的な権限と責任の明確化に特に注意を払う必要がある
(3) 地方独立行政法人<公立病院改革ガイドライン選択肢>
・地方独立行政法人とは、住民の生活、地域社会や経済の安定などの公共的見地から必要な事業であると地方公共団体が認めるもので、地方公共団体が設立する。
・事例は少ない
・自治体とは独立した法人として中間目標の枠の中で自立的な運営を行うことができ、不採算経費は自治体が負担する
・予算・財務・契約、職員定数。人事などの面でより自律的・弾力的な経営が可能となる
・承継財産評価や中期計画策定など運営協議等のために、移行には長い時間が必要
・原則、職員の引き継ぎがなされるため、人事の再編が困難である(外部から有能な人材が導入し難い)
(4)指定管理者制度<公立病院改革ガイドライン選択肢>
・指定管理者制度は、公の施設の管理に民間のノウハウを活用しながら、市民サービスの向上と経費の節減を図ることを目的として2003年6月の地方自治体法改正により創設された
・自主運営方式と第二者委託方式に分かれる:自主運営方式とは職員が主体となって医療法人を設立し、当該医療法人が指定管理者となる方式。第二者委託方式とは自治体外部の医療法人等が指定管理者となる方式(いわゆる公設民営化)。
・適切な指定管理者の選定に特に配慮する必要がある
<メリット>
@業績評価型の民間の給与体系を導入することができる
A指定管理者の自己責任のもとで、運営・予算・財産等全て決定できる
B自治体は指定管理者から安定した賃料収入が見込まれる
C不採算医療に対し特別交付税として自治体に交付される
<デメリット>
@雇用継続に問題を生ずる
A公募により指定管理者を選定する必要がある
B指定期間を短期に設定した場合、安定した医療を継続できない恐れがある
(5)民間委譲(民設民営)<公立病院改革ガイドライン選択肢>
・自治体所有の土地や建物を民間に譲渡し、開設主体・運営主体を民間が担う経営形態
・地域医療の確保の面から譲渡条件等について譲渡先との十分な協議が必要
(6)PFI(Private Finance lnitiative)
・PFIとは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法

各地方公共団体の取り組み

 1.全国の自治体病院の改革事例(福岡県の取り組み 直接経営を全廃)

 全国の自治体病院の改革事例を図表3に挙げた。特徴ある取り組みをした福岡県の例を取りあげる。福岡県では2005年から07年にかけて、5つの県立病院の経営形態を見直し、直接経営を全廃した。朝倉病院(朝倉市)と遠賀病院(岡垣町)はそれぞれ地元医師会に民間譲渡。柳川病院(柳川市)は財団法人医療・介護・教育研究財団に、嘉穂病院(穂波町)は福岡県済生会に民間譲渡。法律で設置が義務付けられている精神医療センター太宰府病院(太宰府市)も、財団法人医療・介護・教育研究財団を指定管理者に指定した(指定管理者制度)。病院の経営効率化を進める際は、まず地方公営企業法の一部適用を全部適用に移し、病院事業管理者に予算編成権と人事権を与える方法が一般的であった。この地方公営企業法全部適用を飛び越し、一気に民間譲渡や指定管理者制度に進むのは異例である。


2.東海地方の取り組み

以下に東海地方の経営形態の変更例を挙げる。
○東海市民病院
2008年4月 民間の東海産業医療団中央病院と経営統合した。全国初の「官民統合」。市民病院施設に救急医療・急性期医療を集約。東海産業医療団中央病院施設を分院とし、慢性期の療養病棟に加えて回復期リハビリテーション病棟を設置した。経営形態は公営企業法の一部適用のまま。公営企業法の全部適用、地方独立行政法人化など他の経営手法について検討中とのことである。
○高浜市民病院
2009年4月 医療法人豊田会を指定管理者に指定。刈谷豊田総合病院の系列病院となる予定。
○一宮市立市民病院今伊勢分院
2008年7月 特定医療法人杏嶺会に民間移譲。一宮市では2009年4月に一宮市立尾西市民病院も同法人に民間移譲の予定である。

3.名古屋市の取り組み

 名古屋市は、1998年ごろから赤字体質に陥りつつあった市立病院改革を検討してきた図表4。2003年にまとめた市立病院整備基本計画では、西部医療センターは周産期医療と小児医療、がん治療、東部医療センターは脳卒中や心筋梗塞の治療を充実させるなど、機能分担を明確にし、5つの市立病院を2グループと1病院に再編する計画を策定した図表5




 しかし、市民の医療ニーズは多様化かつ高度化するとともに、市立病院を取り巻く経営環境は年々その厳しさを増してきた。特に、2006年度にはかつてないほどの診療報酬|マイナス改定をはじめ、医療制度改正による看護師不足、また、新たな医師臨床研修制度による医師不足と様々な要因が重なり、大きな損失を計上した(前述の通り)。
 そのような状況下、今年4月名古屋市立病院に地方公営企業法を全部適用した。健康福祉局から病院局を独立させ、新設の病院局長が市民病院経営の責任者(病院事業管理者)となった。病院局長は市民病院の管理責任者であると共に、5つの市民病院長の任命者となり、市民病院職員の給料表作成も行う。つまり、病院局長は市民病院運営に対し大きな権力を持つと同時に、経営責任を問われる立場となったのである。初代病院局長には前市立大病院長の上田龍三氏が就任。今後の基本方針として3年後に診療を始める西部医療センター中央病院と、今後建設に入る東部医療センター中央病院の2病院を軸に救急を充実させるとの事である。市立病院の収入と赤字の推移図表6を示す(ただし2008年度データは予算であることに注意)。計画通り経営状態の急回復ができるのか、病院局長の手腕が期待される。


名古屋市民病院への期待

 名古屋市民病院への期待をあげたい(私見)。

1.救急の充実を

名古屋市立病院再編計画では、西部医療センター中央病院の周産期医療センターと小児医療センター、東部医療センター中央病院の脳血管センターと心疾患センターで救急を予定している。「西部医療センターの場合、小児科医を15人、産婦人科医を10人以上集めれば365日24時間救急に対応できる」と上田病院局長は述べている。しかし、現時点において市立病院全体でも小児科医は17人、産婦人科医は14人である。上田局長は「名古屋市立大学に3年後に備えて人員確保をお願いしている。また、二つの中央病院が救急を担い、魅力ある病院になれば若い医師が集まる」とも述べている。市民の期待にこたえるべく、最大限の努力を期待したい。

2.経営形態は今のまで良いのか

前述の通り、名古屋市立病院は地方公営企業法の全部適用を行った。比較的取り組みやすい手法であるが、民間経営手法が不徹底になりがちな点を監視する必要がある。地方公営企業法の全部適用については、人事・予算等の権限を付与し、自立的運用を行うことが目的である。しかし、現在すでに全部適用をした公立病院の状況からは、医師確保や経営改善を図る上で、必ずしも有効な手段になっていないと聞く。しかしながら、独立行政法人等への移行は、経営計画の策定に時間を要すことや、職員の身分などの様々な問題を解決していく必要があるため、容易にできるものではない。今後、再編。ネットワーク化の進展状況等も踏まえつつ、地方独立行政法人化(非公務員型)や指定管理者制度へ移行することも考えられるであろう。元名古屋市立病院経営改善推進委員長であり、総務省公立病院改革懇談会座長である長隆(おさたかし)氏は、『名古屋市立病院の医師・看護師不足ヘの提言』として面白い提言をしている。『基本計画では、全く病床削減しないということになっているが、思い切って2センターに特化して病床数を50%削減し、名古屋市立大学付属病院として一体経営化する選択肢もあろう。市立大学の教授がセンターに臨床指導に出向き、センター病院の医師を臨床教授に登用する。看護師も、大学と付属センターと一体の人事としてレベルアップし魅力ある看護師教育がなされるべきである』と述べている。この意見は委員会の提言内容には盛り込まれなかったが、私は参考とすべきと考える。

3.特色のある病院作りを

「何もかもやる、はもう無理。集中と選択が必要だ。各病院に特色がないことが問題だ。得意分野が分かりにくい病院は、患者も選びにくい。」と上田病院局長は述べている。同感である。しかしながら、周産期医療センター、小児医療センター、陽子線がん治療、脳血管センター、心疾患センターどれも重要な施設であることは事実だが、全国的にみて特長があると言えるだろうか。松原武久名古屋市長が「名古屋市立大学は名古屋市の宝である」といっているように、名古屋市立大学医学部および大学病院を自前で保持している市の利点を最大限生かしてほしい。すなわち最新の医療施設、技術および人材の活用である。私が皮膚科医であるから言うわけではないが、社会的問題となっているアトピー性皮膚炎に対応し『アトピー性皮膚炎専門病院(病棟)』、あるいは患者が急増している尋常性乾癬に対応した『乾癬専門病院(病棟)』など、全国でも類をみない特色ある病院作りの発想が必要であろう。「日本全国から患者を集める」考えを持ってほしい。先に挙げた公立病院改革ガイドラインには『経営感覚に富む人材の登用等』について『経営効率化の実現に向けては、経営形態の如何に関わらず、病院事業の経営改革に強い意識を持ち、経営感覚に富む人材を幹部職員に登用(外部からの登用も含む。)することが肝要である。こうした人材登用等を通じ、医師をはじめ全職員の経営に対する意識改革を図り、日標達成に向け一丸となった協力体制を構築することが不可欠である点に特に留意すべきである。』と記述されている。病院局長に企業経営のプロを、病院長や医師に学閥等にとらわれない特徴のある医師の招聘というのも魅力ある市民病院を作るのに大切な観点だと私は考える。

最後に

 自治体病院が、それぞれ地域医療に果たしてきた役割が、現在の社会状況の中で十分に果たせなくなってきていることは、まず認識しなくてはならない。また、国が財政再建の方針を、地方自治体をも例外とせず適用しようとしている今、自治体病院は採算度外視の経営は認められなくなる。経営を再生するには何が必要か。何よりもまず、自治体病院が「お役所体質」から脱皮することが求められるだろう。病院職員一丸となって収入増とコスト削減に取り組む必要がある。
 さらに言えば、自治体病院の問題は、病院に勤務する者だけの努力で解決するものではない。住民(患者)も地域医療を担う「当事者」であることを意識すべきである。自らの病気や健康についてよく知り、かかりつけ医を持ち、何でも病院で受診するという診療行動を考え直さなければならない。軽症なのに休日・夜間に病院で診療を受ける「コンビニ受診」を減らす必要がある。病院勤務医が過酷な勤務で退職しないよう、負担軽減を図ることも重要なのである。今の体制のままでは、病院財務の悪化や医師不足が契機となって、医療崩壊を起こす病院が続出するだろう。自治体病院の崩壊を防ぐために、地域に住む関係者が一体となった取り組みを行うこ
とが求められている。
 さて、名古屋市立病院について言えば、市民の医療ニーズに沿った高度医療や救急医療に対応することが求められている。現在進めている西部医療センター中央病院の整備に留まらず、東部医療センター中央病院の施設充実にも力を注いでほしい。先に、自治体病院改革の視点を列挙したがいろいろな問題が予想される。単純な経営母体の統合だけなら住民や地域医療機関も受け入れることができるが、必ず規模等のリストラが伴う。そうなると受け入れ難い地域も出てくる。実際に名古屋市内でも、サテライト病院となる地域住民や医療機関からは不満の声があがっていると聞く。『むだ使いをせず、こういうところにお金をつぎこんで、田舎でも安心して最低限の医療を受けられるようにしてほしい』といった旨の市民の意見は大切なものである。国から求められたとはいえ、「公立病院改革プラン」を作成することは、市民病院の意義を考える良い機会になるであろう。名古屋市立病院のあり方を十分に議論し、どのような特色のある「公立病院改革プラン」が作成されるか期待して見守りたい。名古屋市および名古屋市民病院を愛する調査室新人委員のつぶやきでした。